ひろば100時間読書のログ

東京大学書評委員会ひろばが行う「100時間読書」のログです。

六冊目読了 兼平 19:49

藤原伊織ダックスフントのワープ』文春文庫

・302ページ ・累計ポイント 646+302=948

本書についても著者についても全く予備知識なく読み始めたのだが、劇中でヘーゲル(『歴史哲学』)が引用されて唖然。なるほど表題作はじめ本書に収録された4編の作品は、注意して読むと(そして末尾の解説でも評されているのだが)「ヘーゲル的なもの」を感じさせる。あまりにも理不尽な現実に直面して、これこそが理性的なことなのだと言わんばかりに淡々と接する主人公たち。
そして、こういう物語を読んでその理不尽さを堪えがたく思う人ほど、マルクスを読むのに向いているんじゃないかな、という雑感。

六冊目は、C.シュミット『大統領の独裁』田中浩・原田武雄訳、未来社

16冊目読了 TenkNiccolo

宮台真司 『終わりなき日常を生きろ』 ちくま文庫

・204ページ ・累計ポイント 11+204=215

・オウムのサリン事件をうけて書かれた社会学者・宮台真司のエッセイ集。
1995年の日本でのタイムリーな事象を扱っているので、「ブルセラ」という言葉が目に入って、思わず時代というものを感じてしまった。
 「さまよえる良心」と「終わりなき日常」のキーワードから現代社会を分析し、サリンといったテロルや救済への道ではなく、「終わりなき日常」を受け入れ、その日常の中で生き抜くことが必要だ、と著者は主張する。
 ではそれは何か?、という問いには著者は明確には答えていない。恋愛、を選択肢として提示するも、著者が言うように、それはコミュニケーション・スキルを大いに要求される行為であり、解決策としては疑問符をつけられる。
 また、本書の内容にはどうしても古臭さが感じられてしまう。(私が1992年生まれであることもかかわっていると思うが)
 それは、ネット環境の発達により、著者が論ずる「コミュニケーションスキル」などに拘泥せずとも、「二次元」の世界へ入り込むことが可能となり、事実そうする人々が増えたからではないだろうか。(本書ではいわゆる「オタク」は弱者(「追いつめられる連中」p151)として描かれている)
 つまり、「終わりなき日常」への新たな解決策はすでに登場していると言えよう。
 内容は古くなっているが、90年代半ばの錯綜した時代状況を知ることのできる本である。 

睡眠・食事ポイント消費 TenkNiccolo

睡眠13:10〜14:40
・累計ポイント 416-300=116
また
・昼食 累計ポイント 116-105=11

・睡魔に勝てず・・思えば72時間経過。いよいよポイント繰りが厳しくなってまいりました。

五冊目読了 兼平 14:20

ヘーゲル『歴史哲学講義』(下)長谷川宏訳、岩波文庫

・381ページ ・累計ポイント 363+381=744

ベルリン大学での講義録。「理性的なものは現実的であり、現実的なものは理性的である」(『法の哲学』)の言に象徴されるヘーゲル哲学にあっては、世界史も、現実にある近代国家という形で自由な精神が実現される過程として記述される。無論、プロイセンキリスト教国家である以上、キリスト教もこの精神の発展を支える存在として肯定的に捉えられるが、彼の死後ヘーゲル学派は、キリスト教に対する態度を巡って左右に分裂する。

15冊目読了 TenkNiccolo

魯迅『故郷/阿Q正伝』 藤井省三訳 光文社古典新訳文庫

・341ページ 累計ポイント・75+341=416

教科書でもおなじみの魯迅『故郷/阿Q正伝』の新訳。従来の訳に比べ、中国語原文の形式に似せたので、長文で屈折した文体となっている。文学革命運動に参加したことで有名な魯迅だが、その短編には、『藤野先生』を始めとして、知識人としての故国中国への希望と不安を感じさせるものが多い。
 個人的には、芥川龍之介の『歯車』と通じる所があるように感じる『狂人日記』が好みである。