ひろば100時間読書のログ

東京大学書評委員会ひろばが行う「100時間読書」のログです。

16冊目読了 TenkNiccolo

宮台真司 『終わりなき日常を生きろ』 ちくま文庫

・204ページ ・累計ポイント 11+204=215

・オウムのサリン事件をうけて書かれた社会学者・宮台真司のエッセイ集。
1995年の日本でのタイムリーな事象を扱っているので、「ブルセラ」という言葉が目に入って、思わず時代というものを感じてしまった。
 「さまよえる良心」と「終わりなき日常」のキーワードから現代社会を分析し、サリンといったテロルや救済への道ではなく、「終わりなき日常」を受け入れ、その日常の中で生き抜くことが必要だ、と著者は主張する。
 ではそれは何か?、という問いには著者は明確には答えていない。恋愛、を選択肢として提示するも、著者が言うように、それはコミュニケーション・スキルを大いに要求される行為であり、解決策としては疑問符をつけられる。
 また、本書の内容にはどうしても古臭さが感じられてしまう。(私が1992年生まれであることもかかわっていると思うが)
 それは、ネット環境の発達により、著者が論ずる「コミュニケーションスキル」などに拘泥せずとも、「二次元」の世界へ入り込むことが可能となり、事実そうする人々が増えたからではないだろうか。(本書ではいわゆる「オタク」は弱者(「追いつめられる連中」p151)として描かれている)
 つまり、「終わりなき日常」への新たな解決策はすでに登場していると言えよう。
 内容は古くなっているが、90年代半ばの錯綜した時代状況を知ることのできる本である。